« 10月新橋演舞場「芸術祭十月花形歌舞伎」昼の部『一心太助』 | トップページ | 松竹花形歌舞伎『瞼の母 お祭り』大阪岸和田公演 »

2011年11月 6日 (日)

10月新橋演舞場「芸術祭十月花形歌舞伎」夜の部 『當世流小栗判官』1

少し前にご紹介した、京劇俳優張建国さんが出演されたCCTVの番組「戯苑百家」という番組で、建国さんが、俳優はひいきにされることと批評されることが必要だが、最近の俳優はひいきにされることばかりで、批評されることがないが、昔の言葉にひいき殺しという言葉があって、ひいきばかりされることは俳優にとって良くないことだという趣旨のことをおっしゃっていました。

動画のあるCCTVの公式ページ

http://xiqu.cntv.cn/nettv/xiqu/special/xybj/classpage/video/20110927/101704.shtml

この動画の20分を過ぎたあたりからこの話が出ます。

建国さんのこの話はもちろん中国の京劇界のことについておっしゃっていますが、翻って日本の歌舞伎界の状況はどうなのでしょうか。

私は建国さんのこの言葉を思い返しながら、先月見た『當世流小栗判官』の感想を書きたいと思います。

『當世流小栗判官』 感想 その1

昼の部の『一心太助』が獅童さん主役の初演作品とすれば、夜の部の通し『小栗判官』は亀治郞さん主役で初演の作品ということで対になっています。

しかも猿之助襲名発表後初の猿之助さんの代表作を演じるわけですから、これまで亀治郞さんが取り組んできた猿之助四十八撰の公演とは、やはり違ったものになるのではないかと思っていました。

私はそのうち、昨年3月南座の『加賀見山再岩藤』を見ましたが、その時は、亀治郞さんが切腹をする場面をとても懸命に演じておられたのが、「がんばっているな」という印象を持ったのを覚えています。それと岩藤の宙乗りが猿之助さんそっくりだったことかな(記憶が定かではないのですが、改装前の新歌舞伎座で猿之助さんの岩藤を見たような覚えがあるのです)ただ、笑三郎さん以外の出演者が一門外の花形俳優が中心だったこともあってか、皆さんがんばっていらっしゃったのですが、作品全体の完成度はまだまだで、これから上演回数を増やして、自分のものにしていくのかなという印象も持ちました。

ですから、今回の『小栗判官』も、昨年の『岩藤』あたりまではやってくれるかとは思っていたのですが、その期待は見事に裏切られました。

まず、番付に載っていた小栗判官の写真。三連休の時に行ったので、舞台写真はまだ入っていないものですが、宣伝用の写真が入っていました。この、亀治郞さんの小栗判官が、私は何度見ても非常に違和感を感じます。男か女かわからないのです。歌舞伎の中には中性的なキャラがいますので、そういう中性的なキャラを演じているのであれば、それでもいいのですが、小栗判官ってそういうキャラなのでしょうか。舞台を見た限りではそうは見えなかったのですが…。

私は『小栗判官』を見るのは今回が初めてです。有名な作品なので、以前から見たいと思っていました。それで今回は気合いを入れて珍しく2回見ましたが、2回とも亀治郞さんの小栗判官のキャラがつかめませんでした。1回目は男か女かわからない小栗判官、2回目は男には見えましたが少年の小栗判官。小栗判官って少年のキャラなのでしょうか? 

『小栗判官』は第一幕は荒馬に乗る小栗判官、第二幕は琵琶湖の辺に住む漁師浪七、第三幕は、小栗判官と照手姫対町娘お駒という、浄瑠璃でよくある、恋する町娘が無残にも殺される、という三つの場面から構成されていると思ったのですが、今回の上演では、有名な場面をつなぎ合わせただけという印象を受けました。初めて見る私には、この物語を通しで演じて結局何が描きたいのか、全く見えてこないのです。おそらく本来、物語全体を小栗判官と照手姫の愛が貫いているのだと思うのですが、それが客席に全く伝わってこないことに大きな原因があるのだと思います。道行の場面ですら、照手姫と小栗判官が夫婦に見えないというのは致命的だと思いました。

ただ第三幕はお駒と母との葛藤が大きな見せ場になっていて、亀治郞さんの本来の持ち役のお駒と母を演じる笑三郎さんの好演もあって、とても見応えがあったのですが、その前に小栗判官とお駒の早変わりがあり、それも私はおもしろいと思ったのですが、一緒に見に行った、おもだかの歌舞伎は初めて見るという友達が、あの早変わりがあるからお駒の心情が深く描けていないと言っていて、なるほどと思いました。

私も気になったのは、早変わりで亀治郞さんがお駒で登場した時に、亀治郞さんが女形を演じている時には決して起こらない笑い声が客席から出たこと。立ち役である猿之助さんが早変わりで女形を演じる時に「変わりましたよ」とアピールするように少しオーバーリアクションで演じているのを、亀治郞さんがそのまま真似ているように思えて、だから、笑い声が起こるのだと思ったのですが、亀治郞さんは女形がメインで売ってきた人なのだから、お駒が初めて登場する時に、客席から笑い声が起きてはいけないのです。

第一幕は、始まりの陰謀と、荒馬を乗りこなしてイェィ!とやっている小栗判官を見る舞台ですが、一番大変なのは、馬の中にいる、いわゆる「馬の脚」の二人なんだよなと思いながら見ていました。

しかしそもそもこの場面の小栗判官が男なのか女なのかわからないか、あるいは少年に見えるので、小栗判官が照手姫を探しに来たのに、照手姫を探す前に、横山大膳の計にのって、馬を乗りこなして遊んでいる小栗判官って、やっぱり子どもだなって思ってしまった。この場面はこういうことが描きたかったのか?

第二幕の浪七の場面。小栗判官ではないので、亀治郞さんはきちんと男を演じていました。(だから亀治郞さんが男を演じることができないのではないのです。小栗判官のキャラに対する理解が、私が舞台から受ける理解と違うのでしょうね。)しかしこの浪七が一番出来が悪かった。

まず春猿さん演じる浪七の奥さんと夫婦に見えない。春猿さんが熱演しているのに、浪七がそれを受けるだけの夫婦としての愛情を出していない。だから奥さんが刺されているのに、その奥さんをおいて、胴八を追っかけていく時にも、奥さんを全く心配していないように見えて、薄情に思えた。春猿さん、とても良かったのに。

これはまだ良いほうで、私がひどいと思ったのが、矢橋の橋蔵が出てきて、胴八達と打ち合わせていた偽代官を演じた後に、啖呵を切る場面です。猿之助さんがどうやって演じておられたのか、全くわかりませんが、あの時はただ大きな声を出していただけだった気がします。大声を出すこと自体が悪いのではなく、あそこで、あんなにひどく怒鳴ると、それまで橋蔵達三人が暖めてきた舞台の雰囲気までぶちこわしてしまうばかりか全否定しているようで、客席まで興ざめしてしまうのです。怒鳴っているからか、何を言ったのかセリフもよく聞き取れないし(1階でも)、さっきまで橋蔵のダンスに笑っていた私達まで否定されているようで、とても不快に思ってしまった。

今の京劇界に、良い声だけ出して唱っていれば、それで良くて演技は二の次という俳優達がけっこう幅をきかせているのですが、亀治郞さんが浪七で怒鳴っている時、私はその京劇の一部の俳優さん達の舞台を思い出してしまいました。歌舞伎の舞台では初めての経験でした。

どうしてこの場面があるのか、とても不思議。ここの浪七は、義理の兄貴に対して、兄貴、いいかげんにしろよ、情けないじゃないかとかいうことが、言いたいんじゃないのかぁ。

その後の大仕掛けの殺し合い(?)も、おそらく、浪七の義理の兄胴八への感情がしっかり描けていないからか、ただ、だらだらやっているだけに見えて、長い。

おもだかの歌舞伎から歌舞伎ファンになった私は、やはりおもだかの舞台には格別の思い入れがあります。現在では中国の舞台の方に思い入れが強くなったので、昔ほどの強い気持ちはありませんが、それでも、おもだか一門の舞台は好きです。おもだかの舞台には他の家の歌舞伎にはない一体感があり、それが客席にいる私との感動が一体になって、素晴らしい経験をしたことが何度かあるのですが、わたしはそれが「猿之助の精神」の一つの現れだと思うのです。一門から長年離れていた亀治郞さんが、今後いつになったらこの一体感を出せるのでしょうか。

今の亀治郞さんが、「亀治郞」である分には、今回の『小栗判官』のレベルでも許されるかもしれません。個人的には亀治郞さんはもっとできると思っていたので、このレベルでは「亀治郞」でもおかしいと思いました。後半ではもっと良くなっていたのでしょうか。

亀治郞さんは夫婦役の妻はできても、夫の方は苦手なのでしょうか。それとも獅童さん相手ならいいが、笑也さんや春猿さんではダメなのでしょうか。猿之助さんが演じる男性は、愛する女性を守ろうとする男性で、しかもとても色気があり、1階で見てどきどきしたことがありました。あと半年で「猿之助」になる亀治郞さんに男の色気が足りないのは、厳しいですね。

あるいは四代目猿之助は三代目とは違う路線を歩むのかもしれません。私はそれでもいいと思います。私達に良い舞台を見せてくださるのであれば、無理に立ち役をやらなくてもいいのかもと思いました。

(続く)

|
|

« 10月新橋演舞場「芸術祭十月花形歌舞伎」昼の部『一心太助』 | トップページ | 松竹花形歌舞伎『瞼の母 お祭り』大阪岸和田公演 »

観劇記(日本)」カテゴリの記事

コメント

紅娘さん、こんにちは。

 関係無い話かもしれませんが、二月の博多座はおもだか屋中心、と博多座からのDMを見て知りました。
http://www.hakataza.co.jp/kouen/images/h24-2/pos_h2402.pdf
 ネット上では俎上の話かもしれませんが、おもだか屋好みの紅娘さんにお知らせしたい、との事でお知らせした次第、です。二月、となると紅娘さんは北京へ、と思いますが…。

投稿: しろくま | 2011年11月30日 (水) 16時06分

しろくまさん、こんばんは。

お察しの通り、2月は北京に行くと思います。ただ来年の春節は1月末なので、2月はもうお芝居のシーズンが終わってしまい、良い舞台があるかどうかまだ未定です。でも春休みじゃないとゆっくり中国に行けないので、やはり誘惑には負けそう。

投稿: 紅娘 | 2011年12月 1日 (木) 22時41分

紅娘さん:

何か書こう、として準備して居ますがどうやら空の投稿が受け付けられたみたいです。行き違いだったら申し訳ありません。

来年の春節、1月末、ですか。うっかりして居ました。春節の際は北京の昔の先生に電話するのでうかうかすると忘れる所でした。最初の挨拶は中国語で話しますが、恥ずかしい事に内容は日本語、です。(笑)

陰暦、ないし農暦の手頃なカレンダーって有りませんか?

投稿: しろくま | 2011年12月 2日 (金) 18時57分

来年の春節は1月23日のようです。私はいつも以下の「万年暦」で調べています。

http://site.baidu.com/list/wannianli.htm

しろくまさんの空の投稿はこちらには届いておりません。ご安心下さい。

投稿: 紅娘 | 2011年12月 2日 (金) 21時13分

空投稿、届いて居ませんでしたか。お騒がせして申し訳有りません。
カレンダーのサイト、ご紹介有難う御座います。私にとってはちと使いにくいな、という感想です。
日本の陰暦カレンダーの方が良さそうな気がします。書店を覗いて来ますね。

投稿: しろくま | 2011年12月 4日 (日) 18時56分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 10月新橋演舞場「芸術祭十月花形歌舞伎」昼の部『一心太助』 | トップページ | 松竹花形歌舞伎『瞼の母 お祭り』大阪岸和田公演 »