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2017年4月 3日 (月)

2017年国家京劇院来日公演 京都公演 感想(追記あり)

『中国国家京劇院 愛と正義と報恩の三大傑作選』

201742日(日曜日)@ロームシアター京都(旧京都会館)

前回の一団の公演の時は京都会館が工事中で京都公演はありませんでしたが、改装後の今年は京都公演がありました。この日は向かいのみやこめっせでどこかの大学の入学式が開催されていたり、となりの平安神宮前ではよさこいのイベントが開催されていたりと、周りがとても賑やかでした。

国家京劇院のHPにも記事が出ました。最近は微信(日本で言うLINEのようなチャットアプリ)の方に早く記事が出るようになりました。

以下のページには神戸公演と京都公演の様子がレポートされています。

B組の『太真外伝』の写真が載っています。

【赴日巡演】神戸海潮弦歌伴 京都古畿遍知音

http://www.cnpoc.cn/contents/19/12867.html

以下のページには四国中国地方の各地の公演の様子がレポートされています。こちらにはA組の『太真外伝』などの写真が載っています。

【赴日巡演】中華国粋閃耀西日本

http://www.cnpoc.cn/contents/19/12846.html

【会場について】

新しくなった京都会館、もとい、ロームシアター京都は、天井につり下げられていた多数の六角形の板が外されて、落ちてこないは心配しなくてもよくなり、また悪評高かった音響がかなりましになっていたように思います。今回は昼の部は三階で見ましたが、音響は以前よりはマシになった感じです。前回の一団の公演会場だったびわ湖ホールや大阪のフェスティバルホールの方が音響は良かったと思います。

それより問題は、4階まで客席があるのにエレベーターが小さくて少なく、エスカレーターがない。階段もものすごく狭くて数も足りない。杖を片手に階段を一生懸命上ったり降りたりする高齢の方の姿を見かけました。前の建物の構造を残したままでの改築は制約もあったと思いますが、公演中に災害が起こればどうするのでしょう。完全な設計ミスです。

【演目とキャストについて】

今回の来日公演、驚いたことが二つあります。一つは中国の京劇の代表作の一つ『鎖麟囊』が上演されること。もう一つは于魁智と李勝素が『太真外伝』を上演することです。

『鎖麟囊』は京劇の人気演目の一つで、今でもよく上演されています。通しで上演される他に有名な歌だけが歌われることも多いです。ただ海外では梅蘭芳一人しかいないと勘違いされているかもしれないほど、梅蘭芳が突出していますが、実際には中国では梅派よりも、程派や張派の方が人気があるように思われます。

私が京都公演を見終わった一番の感想は、「三つの演目はしんどい」というものでした。

中国での京劇の需要と海外での需要とは大きく異なります。

中国での中華料理と日本での中華料理の違いに似ているかも知れません。日本だと中華弁当を買うとだいたい、鶏の唐揚げが入っているかも知れませんが、鶏の唐揚げは中国ではほとんど目にしません。その代わりにアヒルの肉や羊の肉など、日本ではあまり食べないお肉がよく食べられています。今回の『鎖麟囊』は中国人が大好きでもこれまで日本では食べられなかった羊の肉の料理なのかもしれません。しゃぶしゃぶみたいにして食べる羊肉は、本当においしいです。

今回の来日公演は、中華弁当でも、鶏の唐揚げに北京ダックが一切れ、そして羊の肉の炒め物が入った中華弁当は、いろんな味が楽しめる分、お得感はありますが、それぞれの味がバラバラで統一感がなく、お弁当として一気に食べるよりも、お肉料理は一つにした方が良かったように思います。

中国でも最近はファストフード店がお弁当の出前をやっていて電話一本で職場までデリバリしてくれるサービスもあります。そういうのはやはり肉系のおかずがどんと一品、お野菜系がその半分ぐらいの量、という感じです。

今回の演目は三つはやはり多すぎます。前回のように二つにするのが、精一杯だと思います。歌舞伎のように3時間できるのならともかく、2時間という時間の制約がある以上、三つの異なる演目を上演するのは見ている側としてはその世界を理解するので精一杯で、疲れました。京劇を見慣れている私が疲れたのです。京劇を見慣れない人はどう思ったのでしょうか?

今回なら、昼の部で『金銭豹』と『太真外伝』、夜の部で『金銭豹』と『鎖麟囊』という形にできなかったのかと思います。

前回の一団の公演の状況から、今回も配役がダブルキャストであることは予想していました。

十年ほど前の三国志の三団の公演でもダブルキャストだったのですが、あの時は歌ばかりの場面が40分以上続くので仕方ありません。また主役諸葛亮役が三団の一番手と二番手の老生が順番に歌うという形で、ある意味で納得できるものでした。また趙雲役の俳優さんが怪我をされたので、途中で趙雲役も若手(といっても本役の俳優さんより人気のあったイケメン俳優)と交互にやっていたりと、諸葛亮以外の配役も変わっていたそうなので、配役は前もってHPで知らせておいて欲しかったと思います。

一団の場合、三団と異なり、ダブルキャストの俳優の落差が激しすぎるので、前回の私のように外れたときの落胆ぶりは半端ないのですが、今回は日曜日に関西で昼の部と夜の部が行われる日に観劇に行けましたので、AB組(仮にこう呼びます)の両方のキャストを見ることが出来ました。

*『金銭豹』

「西遊記」の物語ですが、主役は「金銭豹」という豹の化け物で、臉譜という顔のペインティングをした豹の化け物と孫悟空との立ち回りを見る演目です。

手のひらや手の甲で槍を回す場面はしっかり御覧下さい。

劉魁魁という中堅の有名な俳優さんがA組で安定した演技を見せていますが、B組の張志芳という俳優さんもはじめて見ましたが、かなり良かったです。昼も夜もこの演目が一番盛り上がっていました。

*『太真外伝』

『金銭豹』が終わるとすぐに説明が始まって、全く別の物語が始まります。

前回の一団の公演の時から、芝居が始まる直前にプロジェクターで簡単にあらすじを説明するようになったのですが、その時に使われている写真はA組の写真なんです。『金銭豹』のような顔一面に模様を描く演目だと、主役が誰でもわからないのですが、『太真外伝』となると実年齢もキャリアも落差が激しすぎて、いくら何でも別の人がやっているのはわかるだろうという感じでした。どうせダブルキャストでやるのなら、A組B組両方の写真を撮っておいて、それぞれの公演で分けて使うべきです。

私が前回の公演で見れなかった、于魁智と李勝素をとうとう日本で見ることができました。以前からご紹介していますが、この二人はここ十年以上京劇界のトップのペアとして有名です。于魁智は老生の中でもダントツの人気を誇り、名実ともにトップの京劇俳優です。李勝素は梅派青衣のトップに君臨し続けている女優さんです。

この二人の『太真外伝』の生の舞台が日本で見られるというのは、たとえて言えば、仁左玉の舞踊が海外で見られるというようなものです。

だからダブルキャストで、この二人がどの公演に出てくるのかがわからないというのが非常にストレスになります。

京都公演の場合、昼の部がこの二人でした。夜の部は、私だけでなく、中国人の京劇ファンが「それ誰?」というような、数年前に国家京劇院に入団した若手がやっていました。歌舞伎で言うと、御曹司ではないが名題試験に合格したばかりの俳優さんが仁左玉の代わりに舞踊を踊るようなものです。実力はあるのでしょうが、ダブルキャストの相手がわるいというものです。

一団は前回の『鳳還巣』の時も同じようなことをやっていて、私は抗議をしたのですが、その抗議も空しく、今回も同じ事、というか演目が演目なだけに、余計にひどいことになっています。せめてチケットを売り出す前にHPに配役表の予定を出すとかしないと。一団の言いなりであることは予想されますが、民音ももう少し強く一団に言えないのでしょうか。

私は、于魁智の歌い方のクセがあまり好きではないのですが(新編劇のような歌い方を伝統劇でもするのです)、彼のカリスマ性は京劇俳優の中でも突出しています。李勝素の実力もやはり突出しています。

B組で玄宗皇帝を演じた劉塁という老生は無名の俳優さんです。ときたま于魁智の歌い方が少し入ったような歌い方がありましたが(指導を受けているのでしょう)、基本的に中国戯曲学院の出身者(余派なのかな?)らしい歌い方をしていました。

B組の楊貴妃は朱虹という、前回の『鳳還巣』でも李勝素の代わりをやっていた若手の女優がやっていました。彼女は前回の日本公演が終わってから北京でも主役をやるようになった女優さんです。彼女は次の『鎖麟囊』でも重要な役をやっているので、B組の公演のカーテンコールでは楊貴妃と玄宗皇帝は登場しません。

『太真外伝』の舞台そのものは、ほんの一部の長生殿の場面だけを演じるのですが、いくら今の中国の京劇俳優の中で、これ以上の配役はないという組合わせで演じていても、賑やかな立ち回りの『金銭豹』が終わってすぐに始まり、十分ほどで終わるので、やはり唐突に始まり唐突に終わるという印象をぬぐえません。せめて三十分ほどは見れないものかと思ってしまいます。

最後の照明の色はあんなに濃くしない方がいい。かえっていやらしく見える。

それと、今回の字幕がちょっと良くない。短い『太真外伝』でも訳がちょっと気になりました。

ラストの歌を以下の動画の字幕を頼りに意味を適当に考えてみると以下のようになります。

http://v.youku.com/v_show/id_XNDk2Njk0NTQ0.html?f=19469366

楊貴妃の最後の歌「金のかんざしと螺鈿の小箱をたまわり、私は一生お側にお仕えいたします(此生守定)」ぐらいじゃないかなぁ…

『鎖麟囊』

たいへん人気のある演目で、特に「春秋亭外」の歌はそこだけカラオケのように歌われる、鉄板の歌です。中国では梅派よりも程派の方が人気があるように感じます。ただ海外ではあまり上演されてきませんでした。

北京で初めてこの演目を見た時、こんな歌い方をする京劇もあったのかと、カルチャーショックを受けましたが、日本でこの「春秋亭外」の歌を聞けたことは、私にとっても感慨深いものがありました。

中国国家京劇院の来日公演では、『三国志諸葛孔明』や『水滸伝』は前々院長で劇作家の呉江氏が来日公演のために書き下ろした作品でした。既成の作品のいいとこ取りという感じでしたが、やはり「さすが」とうならせる部分はありました。

前回の『鳳還巣』や今回の『鎖麟囊』は中国の定番演目を外国人向けに三分の一に縮めるという難しい作業です。本来は二時間以上、昔なら三時間ぐらいやっていた舞台を一時間にするのですから、どうしても細かい描写がそれぞれ三分の一になっている感は否めません。

『鎖麟囊』では、最初の、主人公が刺繍がどうこう言って使用人を困らせたりするのは、主人公がワガママというよりは結婚式を明日に控えたマリッジブルーな心境を描くためです。それをお母さんが出て来て、大切にしてきた宝物を持たせることで娘の気持ちを少しずつほぐしていく。そうした【かわいがられて育ったお嬢様】を描くのが最初のポイント。それが結婚式の前に雨宿りで、みすぼらしい嫁入りに泣いている人を見て、そのお母さんが丹精込めて持たせてくれた鎖麟囊を見ず知らずの他人にそっくりあげてしまう気前の良さと人の良さに、このお嬢様が単なるワガママなお嬢様ではないことがわかります。

そして嫁ぎ先でも何不自由なく暮らしていたところに洪水が起こり、一家離散、主人公は使用人のおばさんと二人きりで難民生活をおくることになります。

このあたりの場面は全て使用人のおばさんの説明、しかもいきなり日本語の説明で処理していましたが、日本語で説明するにしても耳の不自由な観客のために字幕は出すべきです。また一家離散、特に、一人息子と離れてしまうところ等は実際に演じながら字幕で処理する方が良かったのではないかと思います。

ここをしっかりやらないと次の乳母になるところが薄くなるんです。一人息子と別れた悲しみをもう少し描いて欲しかった。

最後に、恩を受けた奥方が自分の恩人ではないかと少しずつ気づき始めて、服をどんどん良い服に着替えさせる場面も一回しか着替えさせていませんでしたが、本当は二回着替えさせます。このあたりの処理は仕方ありませんが、もう少し字幕で細かいニュアンスを出して欲しかった。

A組の呂耀瑤も若手ですが、中国の公演でも少しは名前が出る女優さんです。国家京劇院で程派の『鎖麟囊』といえば3団か2団の演目で、1団がやることはあまりありませんが、1団が『鎖麟囊』をやるとすれば呂耀瑤が主役という感じです。程派の中ではクセのない普通の歌い方をします。北京京劇院の遅小秋を思い出しました。

http://v.ku6.com/show/uFQ5G21b92oSrniloO2E_A...html

B組の張文頴は劉塁クラスの若手です。程派青衣のカリスマ的な人気を持ち、もとは国家京劇院にいたのですが、今は中国戯曲学院で教授になっている張火丁に似た歌い方や化粧の仕方だと感じました。プログラムを見たらやはり張文頴は張火丁にも習っていたようです。

【A組とB組の配役の違い】

『金銭豹』は立ち回りが主です。臉譜の美しさは花臉である劉魁魁の方がいいと思いますが、武生である張志芳もきびきびした立ち回りを見せていましたし、どちらで見ても良いと思います。『鎖麟囊』はA組の呂耀瑤の方が一日の長がありますが、張文頴が悪いというわけではありません。

『太真外伝』はどうしようもありません。于魁智と李勝素に対抗させるなら、いっそのこと女性の老生と男性の青衣に玄宗と楊貴妃をさせるぐらいの趣向でないとダメだと思います。

国家京劇院には劉錚(玉三郎さんと牡丹亭で共演した女形の俳優の一人)がいます。梅派ではありませんが、梅派から発展して出来た張派なので、梅派でも大丈夫だと思います。女性の老生は上海に多いのですが、北京にもいないわけではありません。

【最後に】

ここまであれこれ書きましたが、『鎖麟囊』を二ヶ月の巡業公演で上演させるということは偉業だと思います。中国国内でもできません。中国国内でできないことを外国の日本でやっているのです。素晴らしいという言葉では表現できないほどすごいことなのです。

私のような、配役を公表しろとかいう変な観客はほんの一部で、大半の観客は李勝素と言われてもさっぱりわからないというのが、本当のところだと思います。それでもせっかくの偉業を少しでも良くしたいと思ってしまうのが、ファンの性というものです。

民音の観客の大半を占める、おばさまおじさまは見た目は普通のおばさまおじさまですが、世界の芸能や音楽に触れている方々だというのは民音のHPを見ればわかります。たとえば歌舞伎だけとか偏った観劇歴ではないはずです。そのような、世界の芸能や音楽に触れている方々は一流のものはおわかりになります。それは、観劇後に観客からもれてくる感想を耳にすればわかります。

だから運営側も、ダブルキャストをしっかりと説明して公表するべきなのです。国家京劇院に、ダブルキャストの配役に差をあまりつけすぎないように注文をつけるべきなのです。

次は是非、劉錚さんの『覇王別姫』か、張建国さんの『趙氏孤児』を呼んで下さい。

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